スノードーム の書評・感想

われわれは自分がいちばん必要とされている場所にいかなければならない。
自分の心が導く場所にいかねばならない。
たぶんそこへいくには、恐怖と、未知の暗闇を経験しなければならないだろう。
それでもその先は、たぶん光に向かっているはずだ。
われわれは光に向かって、旅をしている。

スノードーム

ある日、若い科学者クリストファーが姿を消した。彼は、ひたすら「光の減速器」の研究を続ける、ちょっと変わった青年だった。失踪の際、彼は同僚のチャーリーにある原稿を残した。そこには、不思議な物語が綴られていた。彼が残した物語は、真実か、それともまったくの空想か。

全然別の話なんですが、「夜のピクニック」という小説に出てくる忍君という主人公の親友がいて、彼がこんな事を言うんです。


俺の従兄弟が小学校の先生になってさあ昔っから小学校の先生を志望してて、元々絵本や児童文学が好きだったんだよね。
それで、前からちょくちょく俺んちにも、お薦めの本を持ってきてくれたんだ。
でも、俺、小説とかファンタジーとかあんまり好きじゃなくて、ほとんど読んでなかったんだよな。姉貴なんかはよく読んでたけど。
だけど、最近、何かの時の退屈しのぎに、たまたま姉貴の本棚に収まってた本を読んだんだ。「ナルニア国ものがたり」っていう、別世界のファンタジーなんだけどさ

で、最後まで読み終わった時に俺がどう思ったかというと、とにかく頭に浮かんだのは
「しまった!」っていう言葉だったんだ。
なんでこの本をもっと昔、小学校の時に読んでおかなかったんだろうってものすごく後悔した。
せめて中学生でもいい。十代の入口で読んでおくべきだった。

そうすればきっと、この本は絶対に大事な本になって、今の自分を作るための何かになってたはずだったんだ。そう考えたら悔しくてたまらなかった。
従兄弟は闇雲に本をくれてたわけじゃなかった。
うちのきょうだいの年齢や興味の対象を考えて、
その時々にふさわしい本を選んでくれていたんだ。


周囲の雑音をシャットアウトしてさっさと一人立ちしようとしている主人公に雑音はうるさいけどそれは今しか聞こえない音で、後から巻き戻してももう聞こえないんだって事の比喩に話す話なんだけど良い本に出会うといつもこの言葉を思い出します。


「スノードーム」も読み終わった後そう感じました。


文学だとかビジネス書だとか哲学だとか
本を読むと頭がよくなるだとか、役に立つだとか、いつだってそんな事はどうだって良くて


例えば「物語の想像力」とか、「自分以外の誰かの気持ちを考える事」はその人を作る上で
とても大きな影響力があると思うんです。


よく「人の気になって考えなさい」とか言うけれど、
そんな事が可能なのは物語の中だけじゃなかろうか。


小説の中の人物に自分を投影する事でしか自分以外の人の気持ちにはなれない気がする。


十代なんて特にそうだった。


あらゆる状況とあらゆる局面で自意識過剰で何も知らないくせに色んな事を分かった気でいた。


きっと人の気持ちなんて考えた事なかった。


好きな女の子の気持ちを知りたい時でさえも結局は自分を中心に考えていたんだから。


うぅむ、あれは病的だったよホント。


この物語のキーになるのはエックマンという芸術家なんだけどそれを終盤まで気付かず読んでしまった事をとても後悔した。


もしこれから読む人がいたらエックマンの視点を中心に読むと良いと思う。


僕は彼の外見が醜く、内面的にも身勝手な思い込みや嫉妬深く歪んだ感情を持っているから、
エックマンの感情や行動を脇役のそれとして読み進めてしまって終盤まで気付かなかった。


きっとそんなエックマンを誰かがたしなめてくれるだろうと思いながら。


思えば出だしに


スノードーム(原題=The Spead of the Dark)は、なによりも芸術家と芸術についての物語であり、作品とそれを創造する人間の物語だ。

そこには芸術を通してしか世界と関わることができず、人間的な交わりや愛を経験できなかった者の願いが描かれている。


と書いてあるし、表面上は紳士的でも内には独善的で身勝手な感情や虚栄や妬みや憎しみを誰もが持っていてそれが人間じゃないか。


物語の主人公も例外なくそうだろう。


クリストファー ひたすら「光の減速器」の研究を続ける、ちょっと変わった青年

チャーリー   クリストファーの同僚。研究者。クリストファーの残した原稿を預かる。

ロバート    クリストファーの父。
         修道院で似顔絵描きをしている画家。(クリストファーの残した原稿の話の中で登場)

ポッピー    修道院広場で動く銅像というパフォーマンスをしている若く美しい踊り子
         (クリストファーの残した原稿の話の中で登場)

エックマン   「ありえない美の館」というギャラリーを経営する醜い姿の芸術家
         (クリストファーの残した原稿の話の中で登場)


という人物がメインで、事実クリストファーやポッピーにもエックマンを見下している部分や
自分のした事のせいである物が壊れた事を認めようとしない弱さがある。


だから最初読んでいてどの人物にも感情移入出来ずあまり面白くなかったし、いい気がしなかった。


優しくて凛々しくて時には落ち込んだりするけれど曲がった事を許さない主人公ぜんとした人物に感情移入したいのにそんな人間が出てこないのだから。


誰もが誰かを妬み、誰かを哀れみながらも優越感を感じ、自分の事を優先的に考えては自分は特別だと思っている。


そんな人間の内面はあまり見たくないじゃないか。


中でもエックマンは特に歪んでいて身勝手な感情からある犯行に手をそめてしまう。


それはほとんど狂気で、卑劣で、情状酌量の余地もなく、けれどまたある意味でそれは奇跡だった。


色んな人を不幸にし、悦に入るエックマンは見ていて本当に気分が悪かったけれど
そんなエックマンの事を憎む事が出来なかったどころか、そうしなければ、
そうまでして誰かを愛し、愛されたいと切実に願ったエックマンの心に目頭が熱くなった。


いびつで、歪んでいて、決して純愛ではないけれど、それが確かに愛だったから。


醜い姿を馬鹿にされ、幼いクリストファーと仲良しで、容姿の整ったロバートを妬み、
美しいポッピーに恋をするエックマン


最初から最後までエックマンの視点を中心に読んでいたら間違いなくラストで泣いていた。


嫉妬とか妬みとか虚栄とか見返りを期待した好意とか、沢山の醜い感情の中で、
それでも誰かを愛する気持ちだけは美しかった。


見たくないものを受け入れて、醜く、歪んだ感情を持つエックマンに自分を投影する事で物語に入り込んだ時、人の気持ちを考える事の大切さとかこの物語自身の想像力の豊かさを感じました。


海外の本の想像力ってとてもユニークでこれは5年前に刊行された本だけど
今読んでもすんげー斬新。


こんな事を考える人がいるなんて驚きだよ。


そんなこんなでこの本ともっと前に出会えていたら良かったなぁと思った。


オッサン(30)になっても知らない事っていっぱいあるよね。 ( ・ω・ )ノシ


最初に引用した文章とか光の減速器の研究から個人的に原題の
The Spead of the Dark
(闇の速度)の方がしっくりきました。


訳者のあとがき

作者は人間の心の奥にひそむ闇にまで踏み込んで、喜びややさしさだけでなく、悲しみや怒りなど暗い面も含んだ、より深い人間性を描こうとしたのではないでしょうか。

この物語はエックマン氏がひとりの女性を愛することからはじまります。
そしてその愛が受け入れられなかったとき、エックマン氏は恐ろしい行為に手を染めてしまいます。まさに自分勝手の極みで許しがたい人間なのですが、そういって切り捨ててしまえないところが、この本のおもしろいところです。

刊行前にモニターをしてくださった方々の感想のなかにも「エックマンはヒドいことをしたけど、
可哀相に思えて涙ぐんでしまった」などの意見がたくさん見受けられました。

なぜそんな風に思うかというと、やはりエックマン氏という心に闇を抱えた人物像がリアルだったことと、そんな人物がなお、愛という光を求めてやまなかった点に、人々が共感を覚えるからではないでしょうか。


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スノードーム
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評価

13ヵ月と13週と13日と満月の夜 チョコレート・アンダーグラウンド (マーガレットコミックス) 青空のむこう ラベルのない缶詰をめぐる冒険 世界でたったひとりの子

by G-Tools , 2010/12/21



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本を読んだり絵を描いたりホームページを作ったり文章を垂れ流すのが好きです。
お酒がほとんど飲めずたばこも吸えなくてギャンブルとか全然面白くない草食系で 笹とか食ってそーだよねって言われるのですがベースは熊ですのでお気を付け下さい。
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