火車 の書評・感想

想像したろうか。
肘の触れ合う距離に、声の届く範囲に、そういう生活があることを想像できたろうか。

火車

休職中の刑事、本間俊介は遠縁の男性に頼まれて彼の婚約者、関根彰子の行方を捜すことになった。自らの意思で失踪、しかも徹底的に足取りを消して―なぜ彰子はそこまでして自分の存在を消さねばならなかったのか?いったい彼女は何者なのか?謎を解く鍵は、カード会社の犠牲ともいうべき自己破産者の凄惨な人生に隠されていた。

風邪をひいて寝込んでしばらく動けなかったので「火車」を読み返しました。


宮部みゆきさんの小説となぜか縁がなくて、図書館で借りて読んでる途中に返却日がきて返したり、気になる本は沢山あるのになんやかんやで今まで「火車」しか読んだ事がない。


物語は休職中の刑事の主人公・本間 俊介のもとに妻の従兄弟の子供が尋ねて来て、婚約者が失踪したので探して欲しいと頼まれる事から始まる。


銀行に勤める従兄弟の子供和也は婚約者、関根 彰子のクレジットカードを作ろうとした際、彰子がブラックリストに載っていてカードが作れず、さらに過去に自己破産していた事実が明らかになりそれを追求すると姿を消してしまったという。


本間が勤め先や自己破産した時の弁護士に聞き込みを始めるとまったく別人の何物かが「関根 彰子」という戸籍を乗っ取っていた事が明らかになる。


本物の「関根彰子」はどこに行き、偽物の「関根彰子」は何物なのか?


まったく別人の戸籍を乗っ取り、その後フツーに生活をしていくなんて事が可能なんだろうか?


非現実的に思える事件も著者の緻密な描写によって実際に有り得るんじゃないかというリアリティがありました。


ていうかあったんじゃない?ってくらいリアルだった。


ほとんどノンフィクションの物語を読んでるような現実感こそがこの小説の面白さじゃないだろうか。


あまりにも壮絶で、社会の悪意を浮き彫りに描き出しているので笑えるよな面白さではないけど。
リアル過ぎて笑えない。


何の罪もないような女性がクレジットカードで人生を狂わされ、犯罪に手を染めて行く過程を主人公の聞き込み調査によって辿っていくんですが、本人の視点で語られる事のない書き方はなんとなく白夜行と似ていると思いました。


この【何の罪もないような女性がクレジットカードで人生を狂わされ、犯罪に手を染めて行く過程】をはたして悪と呼べるんだろうか?という事を読み終わって深く考えさせられた。


少なくとも物事の前後の事情やその背景や深さを考えずに善悪を判断する事は出来ないと。


最初のうちは戸籍を乗っ取り、本物を殺したであろう偽物の足取りを追う事だけを考えて読んでいたけど、その足取りを追う度に明らかになる偽物の生い立ちの不幸さ、事件の裏側にあるカード社会の犠牲者の壮惨な人生になんとも言えないやり切れない気持ちになった。


クレジットカードの多重債務について、ただ単純にその人に計画性やお金の管理能力がないからそーゆー事になるんだって言うのは間違っている。


作中で溝口弁護士という弁護士が言う


「多重債務者たちを、ひとまとめにして人間的に欠陥があるからそうなるのだと断罪するのは易しいことです。だがそれは、自動車事故に遭ったドライバーを、前後の事情も何も一切斟酌せずに、おまえたちの腕が悪いからそうなるのだ。そういう人間は免許なんかとらないほうがよかったんだと切って捨てるのと同じことだ。」

「たしかに、一部には問題のあるドライバーがいます。免許を取り上げた方が社会のためだ、という人間だ。しかし、そういうドライバーと、なんの過失もないのに事故で命を落とされたあなたの奥さんのようなドライバーを一緒にして、ただ事故に遭ったのは本人が悪いからだと言い捨てることは、もっと間違っている。消費者信用についても、多重債務者についても、それとまったく同じなのですよ」


という言葉には考えさせられた。


高校や中学校でクレジット社会で正しくカードを使いこなしてゆくための指導をするべきだと語られているんだけど確かにその通りだと思う。


今って実際そーゆーのやってるんだろうか?


親がクレジットカードで作った借金で一家離散し、父親も母親も過酷な強制労働をさせられ娘も取り立て屋につきまとわれそれが原因で離婚してしまい、さらに地方の温泉宿に売られ最後には計画的に人を殺してしまう。


なんて救いがないんだろう。


犯人やその手口を解き明かしていくミステリー小説というか、これは便利な世の中の裏側にあるどす黒い社会問題のように感じました。


本当に緻密で生々しく、鬼気迫るものがあるし追い詰められた人間の狂気にゾッとした。


とりわけ日雇い労務者のようなことをさせられている父親の死亡を確認して
財産の相続放棄の手続きをとるために図書館で官報を調べるシーンがゾッとした。


喬子が図書館の机の上にかがみこんで、目を血走らせて官報のページをめくってるんです。
お父さんに似た人間が死んでないか確かめるために...いや、そうじゃない
死んでてくれ、どうか死んでてくれ、お父さん。そう念じながら、喬子はページをめくってたんです。自分の親ですよ。
それを頼むから死んでいてくれ、と。


便利なクレジットカードの裏に潜み口を開けている底の見えない落とし穴の恐怖とその落とし穴に落ちた家族に巻き込まれ人生をめちゃくちゃにされて犯罪に手を染めてしまった人を簡単に悪とは言い切れないよと考えさせられました。


もし今でも学校でクレジットカードの教育をしていないのなら公害とも呼べるその苦しみが自分にも起こり得る事なんだと思いながらこの本を読んだら良いと思いました。


宮部みゆきスゲー。



photo
火車 (新潮文庫)
新潮社 1998-01
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評価

理由 (新潮文庫) 魔術はささやく (新潮文庫) 龍は眠る (新潮文庫) レベル7(セブン) (新潮文庫) 模倣犯1 (新潮文庫)

by G-Tools , 2011/01/02



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