輝ける闇 の書評・感想

セックスであれ、犯罪であれ、徹底的に正確に書けばそれは崇高さに届くはずだ。

輝ける闇

kagayakeruyami.jpg 銃声が止んだ......虫が鳴く、猿が叫ぶ、黄昏のヴェトナムの森。その叫喚のなかで人はひっそり死んでゆく。誰も殺せず、誰も救えず、誰のためでもない、空と土の間を漂うしかない焦燥のリズムが亜熱帯アジアの匂いと響きと色のなかに漂う。孤独・不安・徒労・死――ヴェトナムの戦いを肌で感じた著者が、生の異相を果敢に凝視し、戦争の絶望とみにくさをえぐり出した書下ろし長編。

「水曜日の神さま」というエッセイの中で角田 光代さんがこの「輝ける闇」の書評を書かれていてそれがとても印象深かったので読んでみました。


角田さんが大好きなのです。


ルポルタージュ小説を読むのも開高 健作品を読むのもは初めてで、率直な感想としてすんげー読みにくかったです。


日本語の使い方がかなり独特で、比喩表現も個性的で生々しいセックスの描写や戦争の悲惨さとかが読んでいて辛かった。


いろんな本をそこそこ読んで内心知った風に思っていたのに偉大な小説を読んでもその小説のどんな所が偉大なのか未だにすぐに反応出来ない自分にガッカリだった。


ただ読みづらい本が面白くない本では絶対になくて、もぅそろそろそこんとこを深く掘り下げてみても良いんじゃなかろうかと思ったんですよね。


文豪と呼ばれる作家の有名な小説を読んでさっぱり面白くなかった事が沢山あるんだけど、
そこで終わらずにもう1歩前へ踏み出してその本に込められた何かを感じとろうとする読み方を出来るようになりたくて。


でも全然感じた事を言葉に出来なくて所詮俺とかそんな程度のレベルなので
この本のどんな所が凄いのかは「水曜日の神さま」から引用しようと思います。


今回はなんかそーゆー風に色んなすごい人の感想を引用しながら実際に読んでみて思ったことをぽつりぽつり書いてこうと思うよ。


ごめんよオイラ不甲斐なくて。


角田さんは97年にベトナム旅行中にこの本を読んで心底驚いたそうです。


言葉の使い方、文章のありよう、書く姿勢のすさまじさ等々、驚いた事は沢山あるけれど
その中でもっとも驚いたのは「匂いが書きたい」と著者は文中に繰り返し書いていて
「実際に小説の中ににおいが描かれている事」だったんだって。


ベトナム旅行中にこの小説を読んで【開高 健が書かんとした匂い】それが30年の時を越えて確かに町の至るところに漂っていたそうだ。


その時の事を


私が旅したベトナムは、戦争の傷跡を未だ色濃く残しつつも、しかし発展へと向けてすさまじいいきおいで前進していた。
町中がエネルギーに満ちカオスと化していた。
それでも開高 健の書いた戦時下のにおいは消えていない。
この作家は、ある時間のなかのある場所の特定のにおいを書いたのではない。
その場所が持つ本質のにおいを嗅ぎあて、それを正確に言葉にしたのだと思った。
だから、もし戦争の傷跡があとかたもなく消え、このカオスがひそやかに落ち着き、ホーチミンが、ハノイが、フエが、その他の町が垢抜けた都会になったとしても、開高健の書いたにおいを、私は至るところで嗅ぐことができるだろう。
それは決して失われない。五十年後も百年後も。
そうしたものを、この作家は小説のなかにつかまえたのだと思った。

-水曜日の神様 東京のにおいを嗅ぐ



と書いている。


それを読んで決して失われる事がない「本質」という物にどうしても触れてみたくなった。


戦争だし、ベトナムだし、何十年も前の本だけど、新しい本が必ずしも新しいとは限らなくて古きを尋ねて新しきを知る事を感じたかった。


すんげー読みにくかったけどこれからは本を読む中でそうしたものを感じていけるようになりたくて今年1冊目に読みました。


そうだ。本質は普遍なのだ。


何十年前に出た本だろうと書かれた「本質」はどんなに時が経っても絶対に変わらないし
反対に最近の本に「本質」が宿っているとも限らないのだ。


そういった感想を読むうちにとてつもなく読みにくく感じたのは言葉を誤魔化していないからなのかもしれないと思うようになりました。


読みやすい本というのはテンポよく読めて気持ちが良くて僕はいつもそーゆー本ばかり読んでしまうんだけどそれは例えば「言葉では表現出来ないような光景だった」とか「筆舌に尽くし難い~だ」とか、もしかしてある種の表現を誤魔化しているのかもしれないと思った。


これも水曜日の神さまからの引用だけど


「言葉を扱う人間に「筆舌に尽くしがたい」という表現は許されない」と、開高 健はエッセイの中で書いている。
実際この作家は、汁そば一杯の味を表現するのに、一ページくらい平気で費やすのである。

水曜日の神様 あまーい!



この感想を読んだ時、初めて自分なりに開高 健の凄さが少しだけ分かった。


僕が輝ける闇で特に印象に残ったのがその生々しい性的の描写と陰鬱な気分になるような比喩表現で例えば蚊を叩き潰すシーンで


どこかで...ビーン...と音がすると、すばやく素娥は聞きつけて体を起し、
尻と濡れしょびれた牝を私に見せながら蚊帳のなかをうごきまわり、音高く手をうった。



とか戦時中の生活苦を


家も売り、家具も売り、着物も売ってしまった母は毎日、泣いていた。
家は虫歯の穴のようにうつろで暗かった。



と表現していてその言葉が質感を持って目に浮かぶようだった。


「濡れしょびれた牝」ってあまりにも生々しい表現だし「虫歯の穴のようにうつろで暗かった」も普通の人は使わないか別な、もっとスマートで尾を引かない比喩を使うんじゃないだろか。


でも家具も着物も全部売って何もなくなってしまった家の中の、どこまでも深く暗い闇やその状況の絶望感を伝えるのに「虫歯の穴のようにうつろで暗い」って比喩は気が滅入るほど伝わってくるし溜息までが聞こえてきそうだ。


「濡れしょびれた牝」って表現も行為直後の生々しさが目に浮かんで赤面してしまった。


そういったひとつひとつの表現を正解に書きつける事、
その瞬間の気分まで伝えてしまう書き方はかなり異質で、飛び抜けてるんじゃないかと思いました。


また、BS2の週間ブックレビューという番組の特集で佐野 眞一さんが「重力を持った抽象性というのが開高 健の大きな特徴だと思う」と言っていてそれもとても的確だと思った。


描写力の精密さやセックスの描写力の秀逸さが村上 龍さんとなんとなく似ているかもって思ったけど、文章が持つ重量感とか全てのものがじゅくじゅくと溶けてしまうよなベトナムの空気の質まで伝える表現力はきっと誰にも似ていないし、誰にも真似出来ないんだと思う。


同番組の司会の藤沢 周さんが「開高さん自身がセックスであれ、犯罪であれ、徹底的に正確に書けばそれは崇高さに届くはずだ。と言っていてこの「輝ける闇」では死体が、死や殺し合いや腐乱した遺体であるとか色々あるけれどそれを正確に書くというスタンスは本当にすごい」と言ってました。


ルポルタージュ小説という事だし、その内容より文章の特徴や書こうとしているものを中心に感想を書いたんですが読み終わって自分の中で文章を読むという事が少しだけ変わったような気がします。


本の内容やあらすじだけを読むんじゃなくその作家がどんなやり方で何を伝えようとしてるのかとか、いつかそういった事まで読めるようになりたいです。


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輝ける闇 (新潮文庫)
新潮社 1982-10
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評価

夏の闇 (新潮文庫) ベトナム戦記 (朝日文庫) パニック・裸の王様 (新潮文庫) 風に訊け ライフスタイル・アドバイス (集英社文庫) 珠玉 (文春文庫)

by G-Tools , 2011/01/11



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本を読んだり絵を描いたりホームページを作ったり文章を垂れ流すのが好きです。
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