羊をめぐる冒険 の書評・感想

それはあなたが自分自身の半分でしか生きてないからよ。
あとの半分はまだどこかに手つかずで残っているの。

羊をめぐる冒険

あなたのことは今でも好きよ、という言葉を残して妻が出て行った。その後広告コピーの仕事を通して、耳専門のモデルをしている21歳の女性が新しいガール・フレンドとなった。北海道に渡ったらしい〈鼠〉の手紙から、ある日羊をめぐる冒険行が始まる。新しい文学の扉をひらいた村上春樹の代表作長編。

青春三部作の3作目です。

「僕」が双子の女の子と別れ、「鼠」がジェイに別れを告げて街を出た【1973年のピンボール】から5年が過ぎ、1978年7月「僕」は都内で友人と一緒に翻訳事務所で広告コピーの仕事をし、「鼠」は放浪生活をしながらたまに手紙を書いて「僕」のもとへ送ってくる。

やがて僕は「特別な羊」を求めて北海道を旅することになり、その手がかりは鼠が送ってきたある写真だった。

「いるかホテル」「羊博士」それから内陸部の「十二滝町」に導かれそこで「羊男」と出会い、深い闇の中でついに「鼠」と1作目以降の再会を果たす。

三作目まで読み終わっても自分だけではそれらが何を意味するのかさっぱり分からなくて色んなブログで書評を書かれている方の解説やガイドブックで受け止め方や世界観を学びようやく村上春樹文学の読み方のコツを掴む。

多分メタファーで、冒険譚で、自己の内面的発見と喪失、の物語だったんだと思う。

前回のレビューで「僕」と「鼠」の関係を

現在の村上作品に欠くことのできない【2つの世界】という構造を表している
村上春樹 全小説ガイドブック

を引用し、「街」を出る鼠が死を選ぶことを表しているのに対し僕は書くことによって鼠の死を、新たな始まりへ見立てようとしている。

と書いたんですが三作目になりそれはコインの表「僕」と裏「鼠」になり、この物語(3作目)はその2つを1つに結びつけるためのキーワードとして「羊」を探す(めぐる)冒険だったんだと思いました。
~村上春樹全小説ガイドブック 「羊をめぐる冒険」解説 羊を探し、「僕」は「鼠」とひとつになる参考~

漆黒の闇の中で背中あわせに対面する二人を「表と裏」、または「自己との対面」と解釈するのが1番しっくりくる気がするしキキ(【ダンス・ダンス・ダンス】で付けられる名前。【羊をめぐる冒険】では「彼女」)の

それはあなたが自分自身の半分でしか生きてないからよ。
あとの半分はまだどこかに手つかずで残っているの。

という意味深なセリフも二人の対面を指していると思えば意味は繋がる。

そうしてコージのホームページ 「風の歌」にある

この作品には多くの登場人物がありながら、それぞれが『僕』にとって、非常に重要な精神的つながりがあり、その中のいくつかは僕も知らない僕自身であるという解釈は、非常に興味深いものに思えるし、そう考えると、この冒険小説が自分の内面的発見と喪失の物語であると思える。
~コージのホームページ 「風の歌」 羊をめぐる冒険~

という解説を読んだ時すごくハラオチした。

あるものは忘れ去られ、あるものは姿を消し、あるものは死ぬ。
そしてそこには悲劇的な要素は殆どない。

という言葉も喪失について書かれているしラストシーンも最初は意味が分からなかったんだけど

僕は川に沿って河口まで歩き、最後に残された五十メートルの砂浜に腰を下ろし、
二時間泣いた。
そんなに泣いたのは生まれてはじめてだった。
二時間泣いてからやっと立ち上がることができた。
どこに行けばいいのかわからなかったけれど、
とにかく僕は立ち上がり、ズボンについた細かい砂を払った。
日はすっかり暮れていて、歩き始めると背中に小さな波の音が聞こえた。

というのは「ここまでに失ってしまった多くのもの達のこと」を想い泣いたんだ。
そう思うととても深い喪失感を感じたしとても感慨深い余韻を感じました。

ただ、それでも村上春樹さんは

「成功した原因は<羊>は何かということを僕自身が分らないせい」
~文學界 85年8月号~

と言っているし、「羊」を飲み込んだまま首を吊った鼠も

「そこまで書くまで、<鼠>が生きているのか、死んでいるのか、それさえも僕は分らなかった」
~文學界 85年8月号~

と言っていて実際のとこどうなのかは結局は分からない。

三部作の続編にあたる【ダンス・ダンス・ダンス】を書いた理由の1つも

僕としては主人公の「僕」を80年代に持ち込んでみたかった。
彼が80年代をどう生きていったかということを僕自身が知りたかった。
純粋に興味があったんです。
~デイズ・ジャパン 89年3月号~

と言っているくらいなのでこの小説はこうだ!っていう確固たるものはどこにもない気がしたし登場人物達が物語の中で著者の手さえも離れ自立して生きているという書き方をされているんだと思ったしそんな小説があるということに衝撃を受けました。

ちなみにデビュー作「風の歌を聴け」と二作目「1973年のピンボール」は英語への翻訳を許可していないんだって。

「羊をめぐる冒険」が海外で翻訳され、成功したことについてもういちど村上春樹にご用心 内田樹

「羊をめぐる冒険」は直接的にはレイモンド・チャンドラーの「ロング・グッドバイ」の村上春樹的リメイクです。
そしてその「ロング・グッドバイ」はスコット・フィッツジェラルドの「グレートギャツビー」をリメイクしている。
これは村上春樹自身が「ロング・グッドバイ」の訳者解説で詳細に種明かししています。
~もういちど村上春樹にご用心 はじめに-村上春樹の太古的な物語性について 内田樹~


【羊をめぐる冒険】は村上版の【ロンググッドバイ】だったんだ。
運転手のエイモスは「いわし」の命名者である「宗教的運転手」とまるで同一人物だし「先生」はハーラン・ポッターだし、「黒服の秘書」の相貌はドクター・ヴェリンジャーのところにいる伊達男「アール」とウェイド家のハウスボーイ「キャンディ」に生き写しだ。
どうして村上春樹がアメリカで高いポピュラリティを獲得したのか、その理由の一つがそのときわかった。
村上春樹の小説はアメリカ人がおそらくもっとも愛しているこの二つの小説の世紀末東アジアに出現した奇跡的なアバター(変身)だったからである。
~もういちど村上春樹にご用心 極東のアヴァター「羊をめぐる冒険」と「ロング・グッドバイ」 内田樹~

と書かれていました。

三部作のレビューほとんど引用だけど参考資料の内容も含めてわりと頑張って書いたので誰かの役に立つと嬉しいです。


photo
羊をめぐる冒険 (上) (講談社文庫)
講談社 1985-10
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評価

羊をめぐる冒険(下) (講談社文庫) 1973年のピンボール (講談社文庫) 風の歌を聴け (講談社文庫) ダンス・ダンス・ダンス(下) (講談社文庫) ダンス・ダンス・ダンス(上) (講談社文庫)

by G-Tools , 2011/02/01



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本を読んだり絵を描いたりホームページを作ったり文章を垂れ流すのが好きです。
お酒がほとんど飲めずたばこも吸えなくてギャンブルとか全然面白くない草食系で 笹とか食ってそーだよねって言われるのですがベースは熊ですのでお気を付け下さい。
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