八日目の蝉 の書評・感想

八日目の蝉は、ほかの蝉には見られなかったものを見られるんだから。
見たくないって思うかもしれないけど、でも、ぎゅっと目を閉じてなくちゃいけないほどに
ひどいものばかりでもないと、私は思うよ。

八日目の蝉

逃げて、逃げて、逃げのびたら、私はあなたの母になれるのだろうか。理性をゆるがす愛があり、罪にもそそぐ光があった。角田光代が全力で挑む長篇サスペンス。

別の話なんですが以前東野圭吾さんの【カッコウの卵は誰のもの】を読んだ時、プロスキーヤーの妻が旦那の海外遠征中に生んだ赤ちゃんが実は誘拐した赤ちゃんで犯人の母親は罪の意識から自殺してしまいその子は順調に成長してプロスキーヤーになり...って話を読んで、どうしてもこの話の流れが好きになれなくて挫折してしまいました。

ミステリーだしその辺のあらすじはラストへの伏線でそんなに掘り下げる必要はないって分かってるんだけど。

偽りの母親だとしても、「母親」はそんなに簡単に子供を残して死んだりしないだろうってのがどうしても引っ掛かってしまいもうダメでした。

母親が子供に注ぐ愛より深いものはこの世界にはないと思うんだよ。

そんなこんなで【八日目の蝉】を読みました。
これだよ。俺が見たかったのは。。

血の繋がる実の親より犯した罪の中で偽りの繋がりを必死に守ろうとする誘拐犯に心を揺さぶられるなんて。

赤ちゃんを誘拐するっていう業の深さや愛情の深さや与える影響の深さについてすさまじく正確に書かれていました。

ある日不倫相手の男の赤ちゃんを留守中に不法侵入して誘拐した希和子はそのまま各地を転々としながら逃亡生活をする。

当たり前だけど最初はそれが身勝手で利己的な行動で赤ちゃんの両親に計り知れない精神的苦痛を与える行為であって決して許されないと分かっているけれど逃亡しながら物語が進んでいくうちに過去にその不倫相手・丈博の子を身篭り、中絶させられた希和子の気持ちや自分が生んだ赤ちゃんのように誘拐した赤ちゃんに薫と名付け、注ぐ深い愛情と苛まれる深い罪悪感を見ていてやりきれない思いが募っていき途中から胸が苦しくなった。

私のしてることは、数年前にどこかの夫婦がやったこととおんなじなのだと、
薫をあやしながら思った。
本当は、違う、そうじゃないと思う。
だれかが、たとえば神さまだったら、わかってくれる。
産院から赤ん坊を盗み出したこととわけが違う。そんなこととは違う。
そう思っているが、しかし、もうひとりの私が、どこが違う、
おんなじじゃないかとささやき続ける。
どこが違う、犯罪じゃないか、と。

【悪人】を読んでいた時も同じような気持ちになったのを覚えていて、決して許されない事だけど、だけど...みたいなあの感じ。

中盤になり、エンゼルホームという自然食品の販売をしたりしながら共同生活をする宗教団体が出てくるようになり、指名手配され徐々に追い詰められる希和子はここに逃げ込むんですが親の遺産、自分の貯金、全てを捨ててでも、ただただ誘拐した赤ちゃんと一緒にいたいと願う希和子の強い思いに触れた時、犯した罪やあらゆる事情やそういったものを一切無視してこの二人が幸せでい続けたらいいのにと切実に思いました。

エンゼルホームのボロボロと剥がれる大上段に掲げるもっともらしい信念やコロコロと変わる活動内容と対照的に決してブレることのない希和子の強い愛情は圧倒的に本物だった。

もし、二手に分かれる道の真ん中に立たされて、どちらにいくかと神さまに訊かれたら、私はきっと、幸も不幸も関係なく、罪も罰も関係なく、その先に薫がいる道を躊躇なく選ぶだろう。
何度くりかえしてもそうするだろう。

二年後、希和子と3歳になった赤ちゃんはそのホームからも逃げて岡山県の小豆島で暮らすようになるんですが将来の不安や逮捕される恐れの中で質素に暮らす二人が島の美しさとリンクして本当に幸せそうで印象的でした。

お金もないし立派な家もないけどそれでも人は幸せになれるんじゃないかと本気で思った。

後半部分は希和子が誘拐した赤ちゃん(恵理菜)は元の家族の下に戻り大学生になった恵理菜の視点で展開されていきます。

当時の自分の身に起きた事件のことを調べる中で父親・丈博の女性関係のだらしなさや、生活していく中で見えてくる母親・恵津子の恵理菜に対するよそよそしさや家事をしないルーズさがどんどん見えはじめ、投げやりで色んな人を憎むようになってしまった恵理菜を見ていたら誘拐されてた方がずっと幸せだったじゃないかと本当に切なかった。

角田さんはこの辺の誰もが抱える弱さや情けなさの描写がとても上手い。

当時、丈博が別れを決心した希和子にしつこく連絡してきて実家まで追いかけてきて関係を求めるところなんて本気で死ねばいいのにって思った。

そんなんする粘着質の男そーとーキモいよって思うけど会いに来られると拒めなくて、嬉しくて、ダメだと分かっているのに受け入れてしまうすったもんだなままならんさとかがまたよくある話で生々しくて歯痒かった。

恵理菜の章に入り、何に対しても投げやりで両親や希和子を憎む恵理菜にイライラしたけど、これは人は誰でも強さやチャームポイントと同じように弱さや情けなさを持っていてそれは主人公(自分)も、父親や母親でさえも例外なんかなくて、そーゆー所を批判したり拒絶したりするんじゃなく向き合って生きていこうとしているんだって思いました。

恵理菜が色んな人を憎むようになった理由やその苦しみを吐露する独白の部分で、それまであまり好きになれなかった恵理菜に一気に感情移入してしまい泣きそうになりました。

何かを憎めば気持ちが少し楽になることとか本当は憎みたくなんかないこととか上手く言葉に出来ないし自分でもどうしようもないような感情が確かにあって、それを正確に捉えた文章は明らかに他と違うと思う。

例えば身近な例で付き合っていたけど振られてしまい、自分を振ったその相手を憎んでしまうような感じだろうか。

自分の弱さや情けなさを棚に上げたり理由をつけて正当化出来たらどれだけ楽だろう。

目を逸らしたいの弱さを部隠さずに描写しているから読んでてすごく苦しくて。

でも最後に家族と向き合う決心をした恵理菜や罪を償った希和子を思うととても温かく優しい気持ちになった。

そこから逃げずに生きていけるように、そこでちゃんと生きていけるんだってことを教えてくれる本でした。

おすすめだよ。



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八日目の蝉
中央公論新社 2007-03
売り上げランキング : 2001
評価

対岸の彼女 (文春文庫) 空中庭園 (文春文庫) ひそやかな花園 森に眠る魚 ロック母 (講談社文庫)

by G-Tools , 2011/02/12



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本を読んだり絵を描いたりホームページを作ったり文章を垂れ流すのが好きです。
お酒がほとんど飲めずたばこも吸えなくてギャンブルとか全然面白くない草食系で 笹とか食ってそーだよねって言われるのですがベースは熊ですのでお気を付け下さい。
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