聖夜 ― School and Music の書評・感想

「こんなんで、本当に弾けてると思うのか?」
みんな、驚いて、俺と天野を見ていた。
俺がすごい剣幕で、そんなことを後輩の天野に詰問するのは、とても変だ。
普通なら、倉田コーチに、せめて同じ学年の渡辺に聞くべきことだ。
ただ、俺は天野にわかってほしかった。
何かを否定してほしかった。誉めないでほしかった。
天野なら、そんな耳を、そんな心を持っていると思った。

聖夜 ― School and Music


"俺は記憶のないころから鍵盤に触れてきた"。聖書に噛みつき、ロックに心奪われ、メシアンの難曲と格闘する眩しい少年期の終わり。

個人的な好みなんですが、色んなことに悩んだり、迷ったり、ブレたりしながら前に進もうとする青春小説が好きなんですよね。

その苦悩する様とか、一生懸命さとかが見ていて勇気が出るんです。

大人になって、あまりブレることもなくなったし、一生懸命汗を流して何かに打ち込むようなこともなくなったからかもしれません。

物語はキリスト教の学校に通う三年生 鳴海 一哉の一人称で展開していきます。

教会の家に生まれ、幼い頃に牧師の父とピアニストの母が離婚しその影響(母に別に好きな人が出来たために離婚した)で女の人を信じず、宗教に対してもどこか斜に構え卑屈になってしまった主人公。

父親、母親、祖母といった家族、オルガン部の部員、友達といった人間関係を交え
主人公の人との関わりを否定する卑屈さと、音楽に対する真摯さがとても良かったです。

文化祭のコンサートで演奏する曲にオリヴィエ・メシアンという音楽家の「神はわれらのうちに」という曲を選ぶんですが、この曲は主人公にとって出て行った母親がよく弾いていた、母親との思い出の曲でこの曲を弾くことで何か気持ちの整理をつけようとします。

厳格で、優しく、いつも正しいことを言う父親に対する反発心とか、母親の例だけをあげて女は男を裏切るんだみたいな偏った考え方から中二臭がムンムンしました。

あれ?なんか「青春」「甘酸っぱい」みたいな表現言おうとしたのに
「中二臭がムンムン」になってしまった。

だってこの主人公の友達いないっぷりとか、「別に寂しくないし」とか「そーゆーのめんどいし」的思考がもうたまらなく中二なんです。

良い!良いよ!

俺も中二くらいの時は友達とか別にいらないし的な雰囲気を醸し出そうと必死になりすぎて歩き方とか変になってたよ!

そんな僕の心を鷲掴みの主人公なんですが、出て行った母親に小さな頃からオルガンを習い、音楽に対する姿勢は誰よりも真剣で、その技術は誰よりも優れています。

面白いなと思ったのが「絶対音感」って言うんでしょうか?
日常のあらゆる音が音符として聞こえ、それを五線譜に書ける人。

これを主人公は持っていて

俺は、すべての音が、音符として聞こえる。
車のエンジン音、今発車したあの車のエンジンの音は、低いレのシャープから、ミに移行。
背後を通り過ぎた女の人のハイヒールの音は、ソ、なぜか三拍子、ワルツで歩いている。
歩道で急ブレーキをかけたあの自転車、高いシ、クレッシェンドで。

こんな感じにどんな音も音符にしてしまいます。

夏休みに外にぶらりと出た時とかに五線譜を持ち、画家がスケッチをするように聞こえた音を音符にするんです。音のスケッチ。
絵とは違って、それは不規則でバラバラだけどその雑音の中から、曲らしきものを作ろうとする。
でも元のスケッチした町の音と出来た曲は全然関係がなくなっていてそれはどこかで聴いたことのある何かのメロディに似ているんだってところが面白かった。

音符とか読めないしピアノもオルガンも作曲のことも全然分からないけど音楽やる人の頭の中ってこんなのかなって想像しました。

天野という小鹿っぽい女の子の後輩の独特の才能に強く惹かれたり、青木という超絶にかわいい後輩からアプローチされたり、ロックが好きな同級生とバーにバンドの演奏を見に行ったり学校生活が中心になるんですが個人的には家族の係わり合い方、家族についてどう思っているのかといったアットホームの部分がとても良かったです。

厳格な父を持ち、
の完璧さが疎ましく反発心からいちいち困らせ苦しむ姿を見ようとする主人公だけど、ある事件を起こし無断外泊をして帰ってきた主人公に、一緒に暮らす祖母は父親のことを

あの子は何十年と生きてきて、私に一度も叱られたことがないんだよ。
悪さなんて考えつきもしないんだろうね。めったにいないよ、あんな子は。
優しくて。正しくて。優しくて。優しくて。

お父さんを見習う必要はないよ。つらいよ、あの子の人生は。
いい子である必要はないね。どんどんやりなさい。悪さをしなさい。
そのほうがいい。でもね、おじいさんのように、明るく悪さをするといいよ。
人を傷つけないように

と言い涙を流す。

人を傷つける悪さ-。

主人公はおばあさんに他に好きな男を作って出て行ってしまった母親を許しているかと問いかける。
そのことにひどく傷つき、今も動けずにいる主人公。

自分の母は自分のために泣いてくれる母ではなく、
自分のために泣く女だったと父を激しく羨ましがる主人公。

けれど、その完璧な父も主人公と口論になりある罪を告白するんですがこの辺のくだりが本当に良かった。

大人になるほどに色々なことを知り、正しいことや間違ったことの判断が出来るようになるけれど
「ワガママ」や「見栄」や「嫉妬」といった感情をなくすことはどうしても出来なくて、
でもそれは必ずしも欠点ではなく誰かを強く想う証なのかもしれません。

そうゆう風に考えることだって出来るよね。

そういった言葉にするのが難しい部分を音楽を交えながら暖かい人間関係で綴ってくれています。

ちなみにメシアンという音楽家は音を色として感じるそうですね。

なんとなくという感覚ではなく、鮮明な色のイメージとして和音を半音ずつ移調すると、そのたびに色彩が変化するそうです。

視覚と聴覚が影響し合う「共感覚」というんだそうです。

【第二音楽室】という別モチーフの作品もあるそうでそちらも読んでみようと思います。



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聖夜 ― School and Music
文藝春秋 2010-12-09
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評価

第二音楽室―School and Music 木暮荘物語 ピエタ サマータイム (新潮文庫) 3652―伊坂幸太郎エッセイ集

by G-Tools , 2011/04/14



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本を読んだり絵を描いたりホームページを作ったり文章を垂れ流すのが好きです。
お酒がほとんど飲めずたばこも吸えなくてギャンブルとか全然面白くない草食系で 笹とか食ってそーだよねって言われるのですがベースは熊ですのでお気を付け下さい。
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