心はあなたのもとに の書評・感想

誰かを大切に思う気持ちは、何かを変化させ、いつか必ず相手に届く。

心はあなたのもとに

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どんなに愛していても、ずっと一緒にいることはできない。だから、心は...投資組合を経営する「わたし」が出逢った、風俗嬢サクラ。彼女とのメール交換から、すべてが始まった―。

【歌うクジラ】や【半島を出よ】などバイオレンスでグロテスクな描写が印象深い村上龍さんなんですが【心はあなたのもとに】を読んでいて何より村上龍さんの正確な描写力がすごいフィットするなって思いました。

女の人の感じ方とかは分からないけど、年齢や育った環境によるその人の行動の仕方や言葉遣いが正確に描写されてて読んでて違和感がないんです。

小説家じゃない人が書いた小説ってそういうリアリティが決定的に欠けているって思うことがよくあるんですが、それが欠けているとどんな言葉もどんなシーンも、表面を上滑りしていくように全然浸透してこない。

ただただストーリーを進行させていくためだけの役に思えてしまうんですが、登場人物の行動が設定にフィットしているとリアリティと質感を持ってストーリーの中でちゃんと生きているように思えるんです。

そういった意味で、主人公と不倫の恋をする風俗嬢サクラはちゃんと生きていたし、そのことがとても切なかった。

投資家である主人公は仕事で大きな利益を上げていて妻と娘二人を授かり幸せな家庭を築き何不自由なく暮らしています。

クラブで遊ぶのも風俗で遊ぶのに慣れていて色んな風俗嬢をホテルに呼んではワインを飲んで遊んでいてサクラと出会い、最初は客と風俗嬢の関係が徐々に恋人の関係になりサクラは本名や離婚暦があることや1型糖尿病を発症していることなどを打ち明け二人は親密になっていく。

最初に結末があって、記憶を巻き戻していく展開の仕方で、香奈子(サクラの本名)とのメールのやり取りを何度も引用しているので【歌うクジラ】のような読みにくさはまったくなく、香奈子が苦しむ1型糖尿病のことはもちろん、様々な知識や教訓が詰まっていました。

人によっては理屈っぽく感じたり、説教くさいと感じるかもしれませんが僕はとても面白く付箋を何個も貼ってしまいました。

病気で苦しむ香奈子に入院資金を援助するかわりに憧れている管理栄養士を目指すよう勧める主人公が

ていねいになれる何かをつかんでいる人は具体的に努力できる
その何かと出会えれば、目標がどんなに遠くても、近づくように少しずつ努力できる。

というようなことを言うんですがこの言葉はとても真実だと思いました。

目標を持っている人は少しずつ努力ができるから、苦しい現実を抱えながら、それでもくじけずに元気になるよう努力して欲しいと願う主人公。

実際香奈子の他にも色んな女の人と関係を持ち、合理主義者で恋愛に関して軽薄な部分はあるんだけど会話の中で香奈子が傷つかないような言葉を探したり、香奈子が入院するたびにひどい不安感にとらわれ、香奈子を怒らせてしまった時はどうやって謝ろうかばかり考えてしまい仕事が手に付かなかったりそういった部分はとても真摯だった。

主人公は目標に向かって頑張りながらも入退院を繰り返し衰弱する香奈子を見て自分がしたことが正しかったのか分からなくなったり香奈子は主人公に色々してもらっているのに、自分は弱音や愚痴ばかりで何もしてあげれないのがつらいと話すんですが、そういった答えのない問いの中で『誰かを大切に思う気持ちは、何かを変化させ、いつか必ず相手に届くんだ』って言葉がとても優しかった。

本を読んで何かを想像することが、自分以外の誰かや自分にとって大切な人のことを理解してあげられる力とか、優しさのようなものにつながるといいのにと本気で思った。

自分は大切な人が傷つかないような言葉を探したり、元気付けるような言葉をかけてあげたり出来ているんだろうかって。

自分にとってどんなに大切な人でも自分が関与できないその人固有の現実があり、その人が大切であればあるほど自分はその現実を受け入れなければならないという理解が他人という概念を育てる。

という主人公が自分の人生の中で得た教訓があるんですが確かにどんなに愛していても、ずっと一緒にいることはできない。

それは永遠にという空想的なことより、仕事でしばらく会えないことや、不倫関係でたまにしか会えないことといった現実的な瞬間瞬間のことだと思うんだけど、風邪をひいて心細かったり、嫌なことがあって話を聞いて欲しかったり、どんな状況を抱えていてもそれは揺るがない現実なのかもしれない。

でも、だからこそ人は誰かを大切にすることができるのかなって思う。

恋愛のすったもんだや縺れた男女関係をいつも冷ややかに思っていたんだけど

合理的に割り切れる男と女の付き合いなんて、そんなものはクソだろう。

この文章を読んで男と女なんて惚れたら必ずぐちゃぐちゃになるっていうのは真理で、間違って いるのは自分なんだと思った。

読み終わった後余韻でしばらく動けなかったんですが、
世界の中心で系で初めて良いなって思えました。

その安堵感は、皮膚を深く引き裂くような痛みを伴っていた。
喪失感や無力感よりも、その安堵感のほうが辛かった。

どんなことがあっても君を守るみたいなロマンチックさや一途さはないけれど、
綺麗なだけでは生きているって感じがしないから、僕はこの本の心の描写が好きでした。



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心はあなたのもとに
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本を読んだり絵を描いたりホームページを作ったり文章を垂れ流すのが好きです。
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