チョコレートコスモス の書評・感想

巽は、ぞっとした。さあっと全身に、くすぐったさにも似た鳥肌が立つのを感じた。
今、何か通った。確かに、それを感じた。
まるで大きな獣みたいな何かが、そばを通って、あの子にぶつかったのだ。
むろん、それが錯覚であることは理性で理解していた。
自分は何も見ていないし、少女には何もぶつかっていない。
しかし、そうとしか思えないような動きをあの子はした。

チョコレートコスモス

choko_cos.jpg 「まだそっち側に行ってはいけない。そっち側に行ったら、二度と引き返せない。」 幼い時から舞台に立ち、多大な人気と評価を手にしている若きベテラン・東響子は、 奇妙な焦りと予感に揺れていた。伝説の映画プロデューサー・芹澤泰次郎が芝居を手 がける。近々大々的なオーディションが行われるらしい。そんな噂を耳にしたからだっ た。同じ頃、旗揚げもしていない無名の学生劇団に、ひとりの少女が入団した。舞台 経験などひとつもない彼女だったが、その天才的な演技は、次第に周囲を圧倒してゆ く。稀代のストーリーテラー・恩田陸が描く、めくるめく情熱のドラマ。 演じる者だけが見ることのできるおそるべき世界が、いま目前にあらわれる!

芸能一家に生まれ物心ついた時から舞台に出て高校時代にはTVドラマに出演したりしながら20才前半にして大女優の名が高い東 響子。

大学に進学して初めて演劇部に入り、そのあまりにも異質な才能で周囲を圧倒する天才肌の佐々木 飛鳥。

違う場所、違う環境で暮らす二つの才能をそれぞれの視点で描いていく中でやがて大物映画監督の舞台オーディションが二人を結びつけることに。

そんなわけで「チョコレートコスモス」読みました。

恩田 陸マジでヤバい。

これはすごかったよ。

最近参考書ばっか読んでてすっかり読書のペースが落ちてしまったんですが、それでもこんな本があるから読書ってやめられないしこんなものがあるんならドラマや映画なんて必要ないんじゃないかって思ってしまうくらい圧倒的だった。

「不連続の世界」のようなホラーじゃないし「蛇行する川のほとり」のようなミステリーの要素もない、演劇、舞台を中心に主役の二人に脚本家、役者を交えて展開していくわりと現実的な物語なんだけどめちゃくちゃ面白かった。

1回も見たことないくせに演劇ってすげー!なんて面白いんだろう!って思った。

淡雪記の時も書いたんだけど時代劇やSF、学園生活や女優、写真家やフリーターとか別になんでも良いんだけど、何を中心に書かれていてもその業界のことや主人公が目にする世界観が細かく、正確に書かれた小説ってそれだけで面白いと思う。

というかその描写があいまいだと自分を投影出来なくて全然物語に入り込めないことがしばしばある。

チョコレートコスモスは何かを演じるということや舞台の芝居の雰囲気、同じ仕事をする人間へのライバル心とかがとてもリアルだった。

例えば東 響子には遠い親戚で同じ芸能一家に生まれやっぱり演劇をしている葉月ちゃんっていう仲の良い女の子がいるんだけど、葉月ちゃんの出ている映画のあまりの出来の良さに友達の成功を喜ぶことより悔しさや
嫉妬、打ちのめされた敗北感みたいな感情が書かれていてそういうのがすごいリアルだった。

これは分かるよ。

単に友達の成功が喜べないなんて性格が悪いねとかじゃなくて、同じ舞台に立つライバルって部分があったらやっぱり悔しいって気持ちが絶対にあると思う。
基本的に人間って嫌らしくて醜い面を必ず持ってると思うから。

でもそういう気持ちがない限り進化するために必要なエネルギーって生まれないし月並みだけど「悔しさをバネに」とか「ライバルと切磋琢磨して」ってことにも繋がる感情だから、そういう人間くさくて嫌らしい部分がちゃんと書かれているのがほんと良かったです。

東 響子と佐々木 飛鳥の二人の視点で物語は進むんだけど東 響子の視点ではエリートにもかかわらずそういうライバルに対する憎悪や仕事に対するプライド、エゴ・自我のような感情が多く書かれていてよく一流の人にすっごい負けず嫌いな人がいたりするけど悔しさをエネルギーに変えて努力をしたり自分を奮い立たせているんだと思った。

対する佐々木 飛鳥は大学に入ってはみ出し者が集まって出来たような劇団(個々の面々はとても個性的)に入るんだけど旗揚げ公演で異様な演技を披露し一気に話題になる。


あの少女の動きには、事故ではないかと思わせる生々しさがあったのだ。
電車の中や群衆の中で、あんな異様さを感じることがある。
明らかに「あぶない」、周囲とは異なる世界に棲んでいると思われる人物に遭遇した時だ。
あれは不思議なもので、ただ立っていたり、ぶつぶつ独り言を言っているだけなのに、遠くにいてもそのことに気付く。
誰もが遠巻きに、そっとその場を離れ、辺りは無言の「目を合わせてはいけない」という共感に包まれる。

そんなオーラがあの少女から滲み出ていた。
尋常ではない雰囲気が、あの小さな背中から漂っていた。
それを察知して、客席が混乱したのだ。

この時の演技力とか演出がほんとすごい。
舞台の上ではそんなことが表現されていたのかって鳥肌がたった。

この二人のタイプをもっと詳しく書けば東 響子はまだ20代だけど小さい頃から仕事をしてきて10年以上のキャリアがあるエリートで、当たり前にレールの上を歩いて来たんだけどそれでもやっぱり1つ1つの舞台に対して悩み苦しんできている。

対して佐々木飛鳥は本能のまま並外れた反射神経や表現力を持っていてなんも苦労せず人がやっているものを瞬時にトレースすることが出来る本物の天才。

プライド、エゴのような感情が多い響子に対して、舞台であがったり羞恥心のような感情が一切なくぼーっとしている飛鳥。

飛鳥の才能があまりにも圧倒的でズバ抜けているんだけどオーディションの際に大物映画監督がこんなことを言います。

役者は、人間なんだよ。役者は、人間をやるんだよ。
人間って、今言ったようなものでできているようなもんでしょ。
エゴとかプライドとかって、最も人間臭い、人間の嫌らしさと崇高さと矛盾を含んだ部分だよ。
そういったものがない役者が人間をやったって、ちっとも面白くないでしょう。

これにも考えさせられた。

すごい。演劇ってすごい深い。

物語の後半、演技の中で一種のZONEの境地に入るシーンがあるんだけどその描写は圧倒的でした。

何かに打ち込むことで人はどこまでいけるのか、どこまで自分を昇華させることが出来るのかってストイックさは見ていてやる気がむくむく出てきた。

ラストにタイトルの意味が分かるシーンがあるんだけどその瞬間はとても気持ちよくてすっきりした読後感を味わいました。そういう所はちょっと「夜ピク」っぽいかもね。

恩田陸さんほんと面白いですよね。おすすめだよ。



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チョコレートコスモス
毎日新聞社 2006-03-15
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評価

きのうの世界(上) (講談社文庫) きのうの世界(下) (講談社文庫) 不連続の世界 (幻冬舎文庫) 猫と針 (新潮文庫) いのちのパレード

by G-Tools , 2011/12/06

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本を読んだり絵を描いたりホームページを作ったり文章を垂れ流すのが好きです。
お酒がほとんど飲めずたばこも吸えなくてギャンブルとか全然面白くない草食系で 笹とか食ってそーだよねって言われるのですがベースは熊ですのでお気を付け下さい。
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